「死神の矢(原形版)」(横溝正史)

次はその「骨格」を愉しんでみませんか

「死神の矢(原形版)」(横溝正史)
(「金田一耕助の新冒険」)光文社文庫

「ハートのクインを矢で
射止めた者を娘の婿にする」。
考古学者・古館の言葉に、
招かれていた金田一は
慄然とする。
その悪い予感は的中し、
競技に参加した青年の一人が
胸を矢で射貫かれて
死体で発見される。
そして第二第三の殺人が…。

前回取り上げた「死神の矢」は、
1956年3月に雑誌「面白倶楽部」に
掲載されたものですが、
その2ヶ月後に東京文芸社から
単行本収録される際に
何と3倍以上の長さに増量され、
出版された経緯があります。
わずか2ヶ月という短い期間に
リニューアルされたということもあり、
大筋はまったく変更ありません
(以前取り上げた「支那扇の女」などは
犯人を含め大幅に変更されていた)。

【主要登場人物】
古館博士

…考古学者。弓の蒐集家。
 奇抜な婿選びを考案。
古館早苗
…博士の娘。三人の男から求婚される。
佐伯達子
…早苗の家庭教師。
 早苗と博士に献身的。
加納三郎
…博士の助手。早苗に思いを寄せる。
高見沢康雄
…早苗の求婚者。最初に殺害される。
神田大助
…早苗の求婚者。二番目に殺害される。
伊沢透
…早苗の求婚者。競技に勝利する。
 三番目に殺害される。
三田村文代
…早苗のバレー友達。
 睡眠剤の飲みすぎで死亡。
日下田鶴子
…バレー研究所経営者。
 孤児の文代を養う。
相良恵子・河合滝子
…早苗のバレー友達。
八木健一
…貸しボート屋の少年。
等々力警部…警視庁警部。
金田一耕助…私立探偵。

【人物に関わる完成版への変更点】
日下田鶴子→松野田鶴子
神田大助→神部大助
追加:駒田準、杉原朱実、
   内山警部補、等

読み終えてみると、
完成版のダイジェストを読んだ
感覚がしました。
あとから構想が
膨らんだというのではなく、
作品の骨格はすでに決定していて、
肉付けをせずに雑誌発表を
行ったといった感じでしょうか。
雑誌の方は一回の読み切り掲載であり、
連載ではなかったようです。
紙面の制約上の理由だったのか、
それとも遅筆の横溝
締め切りに間に合わせるための
時間的な制約だったのか、
いずれにしても後日肉付けを行う予定で
原形版原稿を
編集者に渡したのでしょう。
そして大急ぎで大規模加筆を行って
完成版とし、
単行本出版に間に合わせたと
いったところでしょうか。

前回、本作品の味わいどころとして
「横溝特有のおどろおどろしさ」
「真犯人が最後まで読めない周到な構成」
「金田一の人間的魅力」の
3点を挙げました。
「変更」ではなく、
骨格をそのまま生かしての
「大幅加筆」で、それらが一層色濃く
表現されていることに気づきます。
それだけ横溝は本作品の「骨格」に
自信を持っていたのでしょう。
最近復刊発売された「完成形」を
読み終えたあと、
次はその「骨格」を愉しんでみませんか。

(2022.3.11)

StockSnapによるPixabayからの画像
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